第12章 Master(先生はジェイド先輩)
海底では太陽の光が届かず、火は使えない。
なので火を通した料理は滅多に食べることができないのだ。
海の中でも裕福な家系に生まれたジェイドでさえ、火を使った料理を食べたのは、アズールの実家のリストランテか、陸の訓練学校くらい。
だが、ナイトイレブンカレッジに入学してからは、アズールと共に陸の料理を研究し尽くし、食べつくして来たと言っても過言ではない。陸2年目と言っても、そこいらの人魚よりも十分舌は肥えているつもりだ。
しかし……
目の前で、小さい口をふーふーと必死に動かして
「おまじない」とやらをかけている少女をまじまじと見る。
さすが異世界人と言うべきか…。
子ども扱いされるのは癪に障るが、ジェイドの性格上、未知の料理にキノコまで使われるとなると…早く食べたい気持ちで胸が疼く。なので、文句も言わず大人しく待つことにした。
「そろそろ大丈夫なハズです!
はい、アーン」
「っ!!!」
目の前に出されたのは
求め続けたキノコゾウスイッ!!
しかし、この少女はウツボの自分に
口を開けろと要求しているのか?
ウツボにとって口を大きく開けるという事は
求愛行動の一つだと言うのにっ……!
吹き荒れる嵐のように心の中が
かき乱された。
先ほどまで舌ペロしてニコニコと笑顔で待っていたジェイド先輩が、突如顔を膝に埋めて体を丸め始めたことに驚くユウ。
やっぱり口に合わなかったかしら…とオドオドした表情は、ウツボの葛藤を全く理解していなかった。
観念したように顔を上げたジェイド先輩は、それはそれは珍しくお顔が真っ赤で、今度はユウの方が目が点になる。
レンゲを持っていたユウの腕ごと食いちぎる勢いで、その大きな口が開いたかと思うと…あっという間にレンゲの中身が食べられていた。
(びっっっくりした! 良かった、腕ついてる…)
猛獣への餌やりで自分自身が餌になってしまうかと思った小エビ。そんな彼女をほっといて、やっとの思いで食べたキノコゾウスイを噛みしめて、ウツボは目を輝かせた。
口を押えてバッと勢いよくジェイドが見ると、
反射でビクッと肩を揺らすユウ。