第12章 Master(先生はジェイド先輩)
料理を運び、彼の部屋の前に戻ると、綺麗な貝殻の小袋がドアノブの前にかけられていた。
中には差出人であるアズールから
魔法薬とメモと、謎のスパナが入っていた。
何事かとメモを見ると『薬を飲むのを嫌がったらこれを使いなさい』と、どこぞの不審者への防犯グッズのごとくメモが貼って合る。
いや、物騒……。
(ジェイド先輩は薬を飲めば一日で良くなるって言ってたけど、即効性がある分とんでもなくまずいのかな……?)
そう考えるとこのスパナは慈悲の心…?
いやいや、と思考が物騒で染まらぬ前に部屋に入った。
◆
そこには静かに目を閉じて眠っている
ジェイド先輩の姿があった。
輪郭に影を落とす長い睫毛は閉じられたままで、
切れ長の瞳は開くことはない。
まさにそれは人を惑わす美しい人魚の姿で、無垢な乙女が見れば「はぁ…」と溜息が零れるだろう。
ユウが少し離れた場所にあるテーブルに食事を置くと、匂いと物音に反応したジェイドが顔をこちらに向ける。気だるい動作だったが、顔色は随分マシになった。
「……ジェイド先輩。
ごはん作ってきましたよ。食べれますか?」
「いただきます。
…この匂いは山の香りですね。
これは、キノコ…ですか?」
「はい。ジェイド先輩が山から採ってきた
キノコや山菜を使って雑炊…おかゆにしてみました」
「ゾウスイ? オカユ?…とは」
「私が住んでいた国の料理で
風邪を引いたり、
具合が悪い時に食べると体に良いんです。
消化にもいいので、ゆっくり食べてくださいね」
「なにからなにまで…すみません。
貴女には、情けない姿を見せてしまいましたね」
私になのか、他者全てになのかは測り兼ねたが、ジェイド先輩は本当は弱い姿を見られてなくなかったようで珍しく本気で落ち込んでいる様子だった。
「気にしないでください!
いつもは私が助けられている方なので…
ほら、この前教えてくれた魔法史のテスト!
実は満点取れたんです。
ジェイド先輩が教えてくれたおかげですよ」
「……僕は、
僕の好きな事をしていただけですが。
ユウさんに貢献できて、何よりです」
そう言って弱弱しく笑ったかと思えば、
ベットから身体を起こし
ソワソワして目を輝かせ、あるものを指さした。