第12章 Master(先生はジェイド先輩)
「……帰ってきたら、もうどこにも行きませんか?」
「はい。
今日のジェイド先輩は甘えん坊ですね」
「……約束ですよ」
ふふっと笑えば、観念したように
ムっと顔を歪ませて手を離してくれた。
その顔は拗ねた時のフロイドとそっくりだ。
「眠って待っていてくださいね。
すぐ戻りますから」
やっと立ち上がり、ユウは美しいターコイズブルーの髪をひと撫でして部屋を出た。
部屋にぽつん…と一人残ったジェイドは、
目を閉じ睡眠を取ることに集中する。
そうしないと、先ほどから「キュゥ…キュウ…」と喉が勝手に鳴ってしょうがないのだ。
◆
ーモストロ・ラウンジ
いつも賑わっているラウンジのジャズの音が今日は止んでいた。ユウが様子を伺いながら、スタッフルームに向かうと『スタッフ多数が病欠の為、本日は臨時休業』という知らせが携帯のメールにも届いていた。
「誰かいませんかー?」
静まったラウンジにユウの声だけが反響する。
返事はなかった。
こんな時、自分はラウンジでスタッフとして働いていたことを心より感謝する。
期限が近い材料を冷蔵庫から拝借して、
いつも使いなれたキッチンで調理していく。
材料代はアズール先輩にあとで支払わないと…。
冷蔵庫を開けて隅に置いてある山菜やきのこのトレイを取る。『ご自由にどうぞ』と書いてあるこれらが余っていて良かった。いつも早めに処理しないと、賄いテロでジェイド先輩が料理にキノコを混入して大騒ぎになるのだ。いつもは、フロイドが開店前に必ず魔法で処理(燃や)している。
以前ゴミ箱にそのまま捨てたら、
第x次ウツボ大戦が起こったらしい。
…ちょっと見てみたかったなぁ。
そうこう考えている内に、水菜・しいたけ・エリンギ・しめじを順番に千切りにしていく。きのこは日本料理に近いので私は大歓迎だが、さすがに毎日出されると飽きてしまうかも。
幸いなことに、ユウが食べる賄いはすべてフロイドシェフの力作ばかりなので、まだきのこテロに合ったことがない。
沸騰させた水に切った材料とライスを入れて、
味を付け、
最後に卵をかければ”きのこ雑炊”の出来上がりだ。
水分補給に果実を何個か拝借してデザートを作る。先輩は意外と量多く食べるので、これで十分だろう。