第12章 Master(先生はジェイド先輩)
「…すみません。
フロイド先輩から具合悪いと聞いて、
お見舞いに来ました。
まさかここまで悪いと思ってなくて…。
人魚には感染するって聞いたんですが、
誰か看病してくださる方はいらっしゃらないんですか?」
咳をするジェイドの背中をさすりながら、
無理しなくていいですよ…と体をそっと倒して寝かした。
ジェイドは当然のユウの訪問に正直頭が回っておらず、夢か幻かワンチャンアズールかもしれないと感じていた。
だが、頬に添えられた手のひらが、今の暑苦しい自分の体にはキンっ…と冷えて、とても気持ち良かった。
「ゴホっ…薬を飲んで1日安静にしてれば問題ありません。
僕達オクタヴィネルは自己責任がモットーですので…」
「そんな……」
例え苦手だと思っていた先輩だろうと、
目の前の病人をほっとくなんて出来なかった。
「ちょっと待っててくださいね。先輩」
ユウはジェイドの頬に当てていた手のひらを下げ、かわりに彼の口に体温計を咥えさせた。
彼らは珊瑚の海の中でも北の寒い地域出身だと聞いている。きっと暑さは何より苦手だろう。
水分補給を大量に準備して、氷嚢に買ってきた氷を砕いて入れた。
ピピッ!と音がして彼の口から体温計を引っ張り出すと…
「……38°ッ!?」
人魚の彼らは人間と違って体温も低い。28°前後が健康体の標準に対して、今のジェイドが苦しがっているのもしょうがないだろう。
ユウは急いで冷たく湿らせたタオルで汗でびょっしょりの身体を拭き、水を飲ませ冷えピタを張って、さらにその上から氷嚢まで垂らした。おかげで部屋の体感温度はだいぶ下がったように思う。
(寒くしすぎかしら…?
さっきよりもだいぶ顔色は良くなったけど…)
「ジェイド先輩…。
寒くないですか?お加減いかがですか?」
やさしく囁くような声で語りかけると、
切れ長の瞳がゆっくり開かれていく。
「すごく…楽になりました。
しいて言えば、服がジャマです…」
(…えっ?)
そういえば片割れのフロイドは、海の中では皆裸だよぉ~。服なんて最初は窮屈だったと愚痴っているのを思い出す。
改めてジェイドを見るが、キノコ柄の可愛いTシャツと黒いスラックスでラフな格好をしていた。