第12章 Master(先生はジェイド先輩)
突如、ドォンと目の前の扉が吹き飛んで
爆風がユウの髪を揺らす。
驚きで体が固まるユウだが、
正反対にハァーハァーと息苦しそうに
体を揺らすジェイド先輩が目に映った。
「ジェイド先輩!」
普段どんな時でも冷静沈着。衣服の乱れもない彼が、
美しい髪は乱れ、今は顔を真っ赤にして体中がその熱さに喘ぐように息をしている。
「ユウ、さんっ……」
吐き出す吐息からも熱を感じる。
壁に体をもたれる事によって、立っているのがやっとの状態のようだ。あの巨体も今風が吹いたらあっさりと倒れてしまいそう。
ユウは慌ててふらつく体を支えると、彼が着ていたTシャツが汗でびょっしょりで、さらに驚いた。
「すみません!…ここまで酷いと思わなくてっ…。
良ければ、ベットまで運ぶの手伝います」
ジェイドの片腕を自分の首に巻き付けて、
腰を引き寄せて一歩一歩踏みしめて歩く。
細身な割にしっかり体重があるのか、体格差があるユウは顔を歪ませて歯を食いしながらなんとか運んだ。きっと一人では踏みつぶされていただろう。
ベットの周辺には、割れた目覚まし時計やフロイドとお揃いのウツボの抱き枕が錯乱していた。先ほど大きな音を立てていたのはこれらかもしれない。
「ハァっ……ずっみません…」
ようやくベットにジェイド先輩を寝かせると、彼は真っ赤な鼻を啜りながら、小さく答えた。
ユウは持ってきたペットボトル(『深海~海の味』)をジェイドに渡し、花柄のハンカチで彼の顔周りの汗を拭きとってあげた。
普段と違うジェイドの表情や、ゴクリと言って動く大きな喉仏をまじまじと見てしまうが…さすがに失礼だったと目を逸らす。
いけない。いけない…。
ここは平常心で…。
手持ち無沙汰もあれなので、
落ちている物を片付けながら体温計を探した。
その間にも彼は受け取った500mlのペットボトルを、あっという間に飲み干していく。
「…お見苦しい所を見せてしまいましたね。
今日はなんのご用ですか?」
コンコンと咳き込みながら、出来るだけポーカーフェイスを装ってジェイドは言葉を吐き出した。