第12章 Master(先生はジェイド先輩)
そこまで言って、フロイドは肉食魚である鋭い歯を見せて人知れず笑った。
別に兄弟と殺し合いをしたいわけじゃない。
ただ、そっちの方がオレが面白そうだからー
単純明快な理由に、ヴィランらしく悪い顔をしたのをユウは知る由もなかった。
(はやく、オレの所に泳いでおいで。
かわいい、かわいい甘エビちゃん♡)
◆
「小エビちゃんが看病に行ってあげたら、
ジェイドも喜ぶと思うよ?」ー
フロイドからその言葉を受けて、放課後オクタヴィネル寮に向かうユウ。
気に食わない事を言われたり、観察と称して日頃絡まれるものの、彼のおかげで得た物も多いのが事実だ。
日頃のお礼も兼ねて、簡単にお見舞いに行こうと決めたのは速かった。マブやグリムは誰一人ついてきてくれなかったが…。
途中、寮長のアズールに出くわしたが、どこのウツボから聞いたのか「貴女、テストで満点の成績だったみたいですね。マーベラス!エクセレント!この調子で頑張りなさい」と同じように頭をよしよしされた。
(お母さん…)と内心癒される。
それは彼がなんだかんだ文句を言いながら、
ユウの面倒をしっかり見てくれる性格に好意を感じているからだろう。
アズールと別れ、ミステリーショップに立ち寄ってお見舞いの品を探すが、風邪気味の人魚に何が効くのか正直分からない。
今は変身薬で人間の体だからと勝手に納得して、普通の人間と同じように果実やゼリーなど消化にいい食べ物を購入した。
そしてー
ついにジェイド先輩がいる部屋の前に辿り着く。
トントンと控えにノックをすると
「お休みの所すみません。ユウです」
シーンと無反応が続く。
やはり具合悪い所に押し掛けるようで悪いかな…と罪悪感が芽生えたユウは、持ってきたお見舞いの品を扉の前に置くことにした。
「ジェイド先輩。
フロイド先輩から体調が良くないって聞いて…
もし良かったら消化にいい食べ物を
買ってきたので食べてくださいね。
扉の前において置きます」
シーーーンと続くかと思った静寂は、
ドンッと何か物が倒れたり、ガシャンッと割れる音で破られる。
扉の奥から聞こえた音に、
ユウはギョッとして身を縮こませた。