第12章 Master(先生はジェイド先輩)
人間の雌はフロイドにとってみれば、
弱弱しく、ちっちゃくて、やわらかい。
ギュっとしたらすぐ壊してしまいそうな存在だった。
なのに、この小エビは
誰よりもよわっちい癖に
誰にも負けない強さがあった。
しぶとく、打たれ強く、それでいて
とても健(したた)かだ。
だからこそ、飽きないー
弱肉強食の世界で生きてきた彼にとって、その生き方は嫌いではなかった。陸と違って海では倫理や常識よりも、生き残る術を持つ奴が偉いのだ。
最近、自分の片割れであるジェイドがユウに、異常に執着していることは知っている。
理由まで
教えてくれないのが気に食わないが。
(嗚呼、
ジェイドに目つけられるなんて可哀想に…)
意外にも、これが彼女に抱いた最初の感想だった。
見かけはフロイドの方がヤバイ奴という生徒も多いが、双子を深く知る者からすれば、ジェイドの方が真にヤバイ方だと口を揃えて言う。
奴が一度獲物に決めたのならば、
この女が逃げる術はないだろう。
フロイドに比べ、興味の幅は狭いが一度のめり込めば何時間でも何週間でも熱中することができるジェイド。
キノコがいい例だ。
その時点で脳内に自分のキライなキノコのフォルムと、土臭い匂いを思い出してフロイドは(うげぇっ…)と舌を吐き出した。
「ジェイドはねぇ、今日は寮で寝てるよ」
突然んげぇっ…と舌を出したフロイドに
不思議な顔を向けるユウ。
「…寝てる?ジェイド先輩具合悪いんですか?」
「あーね。ウン、」
元々人魚の彼らは、自分達が弱っている姿を他人に晒さない。弱っていると分かれば、外敵から襲われる可能性があるからだ。
なので、一瞬フロイドはユウに
真実を話そうか迷った。
きっと兄弟は弱っている姿を、
…特に雌であるこの少女には見せたくはないだろう。
しかし……
心の中でムクムクと疼く加虐心。
ジェイドと小エビが仮に仲違いしたら
この食いでのある小エビは、
自分の所に泳いできてくれるだろうか…。
「ジェイドはねぇ、今人魚にしかかからない流行り病…人間でいうと軽い風邪の状態なんだって。
オレにも感染する可能性があるから、
今は部屋別々だけど…」