第12章 Master(先生はジェイド先輩)
お昼休み。
2-E組に入り口に立ってジェイド先輩を探す。
生徒の集団から頭ひとつ出ている彼を見つけるのは、簡単だった。
以前の私なら、自分から声をかけるなんて
想像もつかなかっただろう。
いつの間にジェイド先輩と過ごす時間が増え、
彼を怖く思う気持ちも薄れていった。
それどころか…
勉強終わりに淹れてくれる彼の一杯の紅茶が
楽しみになっている自分がいる。
ずいぶん絆されてしまったなぁ…と
ユウは自嘲気味に笑った。
「あの、ジェイド先輩!」
やっと捕まえた背中に向けて声をかける。
手の中で握りしめたテスト用紙が
勇気をくれたが、
振り返った背中は
探し求めていた人物と
そっくりの違う人だった。
「ん~?
あはっ。小エビちゃんだぁ~!
こんな所で何してんの?」
ユウを見つめ返したのは、
ジェイドではなくフロイドの方だった。
声をかけて来たのが小エビと分かるや否や
フロイドは嬉しさで尾びれを巻き付けるように
その長い手足で、あっという間に
腕の中にユウを閉じ込めた。
最近ではユウの頭に顎を置いて歩いたり、
「小エビちゃん、美味しそうぉ」と言って
柔肌をはむはむと甘噛みされたりする。
けして彼のことが嫌いというワケではないが、
これも小エビたる所以なのか
反射神経でビクっと全身が
のけぞってしまうのは毎度のお約束だ。
「フロイド先輩っ!
ジェイド先輩にお話したいことがありまして…
どこにいるか知りませんか?」
「えぇ~。オレに会いに
来てくれたんじゃねーの?つまんね」
ぷくっとほっぺを丸めて、拗ねるウツボさんは
大変可愛らしい。
残虐非道と噂される彼からは
想像もつかない表情に
思わず微笑みがこぼれる。
「ふふっ。じゃじゃーん!
見てください先輩!
ジェイド先輩に教えてもらった魔法史が
なんと満点取れちゃったのです!」
ふんすと小エビが自慢げにテスト用紙を掲げた。
「あはっ。偉いねぇ。
いい子いい子したげる~♡」
ちっちゃなことでも、
嬉しそうな顔をする小エビを見て
フロイドも楽しくなって、
そのちっちゃな頭を優しく撫でてあげた。