第6章 素直 後編【※錆兎】
「今…お前、…可愛い声、出してたぞ?」
「だ、出してないわよっ!」
思わず陽華が口元を抑えた。その行動に、錆兎がまた苛立ちが募る。
「なんだよっ。そんな声が出せるなら、出せよっ!なんでいつも、堪えてんだ!」
「…………」
陽華が顔を反らし、黙り込む。
「なんで、黙ってるんだ!…おい、こっちみろよっ!」
嫌がる陽華の手を取り、無理矢理自分の方に向ける。
「や、やだっ!」
そう小さく声を上げ、振り返った陽華の顔を見て、錆兎は思わず息を呑んだ。
「…陽華…お前、…今まで、そんな顔で俺に抱かれてたのか?」
汗ばんだ頬、赤く上気した顔、蕩けきって潤んだ瞳が、恥ずかしそうに錆兎を見詰めていた。
(……か、可愛い。)
「み、見ないでっ!」
陽華が、錆兎に見せるのを拒否するように顔を背けた。
「……なんだよ、そんなに俺に見せるのが……嫌なのか?」
陽華の態度が、また錆兎の心に暗い影を落とし、錆兎は感情を抑えられなくなっていた。言ってはいけない、わかってたけど、止まらない。
錆兎は陽華の手を乱暴に掴むと、自分の方に引き寄せた。
「…どうせ、他の男には、見せるんだろ?」
「…なんのこと?」
「だからっ!他の男には、抱き合ってして、善がって、そんな目をして、見つめるのか?って、言ってるんだよっ!」
「他の男って、誰よ!」
「顔も合わせたくない、大嫌いな俺とだって、やれるんだ。…熱を冷ましてくれる適当な奴がいれば、誰とだってするんだろ!!」
「っ!」
パァン!!
思いっきり、頬を打たれ、錆兎が頬を抑えながら、陽華を見た。
陽華は目を潤ませて、今にも泣き出しそうに、唇を震わせていた。