第6章 素直 後編【※錆兎】
「……ずっと、そう思ってたの?」
陽華が落胆したような目で、錆兎を見つめた。その瞳に涙が溢れて来たのを見て、錆兎は言うべきじゃなかったと後悔した。
「…あ、いや、違うんだっ!…俺、少し頭に血が昇って…、」
言い訳しようとする錆兎の言葉を、陽華の言葉が遮る。
「私…こんな……、こんな…こと、他の人なんかとしたりしないっ!アンタとしか、したことないわよっ!」
泣き叫ぶように発せられた陽華の言葉に、錆兎の思考が、一瞬停止する。
……今、なんて言った?
「俺と…しか?……だ、だってお前、俺と初めてした時、初めてじゃなかっただろ?」
「は、初めてだったわよっ!」
「っ!……お前はそんなこと一言も……、痛がっても、いなかったじゃないかっ!」
「何言ってるのよ!めちゃくちゃ、痛かったわよっ!なのにあんた、遠慮なしに突っ込んで、ガンガン突いてきてっ……、」
その言葉に、錆兎は真っ青になった。忘れてた、こいつは痛みぐらいじゃ、声をあげない。
「それは、お、お前がちゃんと言わないからだろ!!声だって、出さないしっ…、」
そこまで言って、錆兎は言葉を止め、反省するようにうつむいた。
「……いや、俺が悪いな。そういう事は、男の俺が気を使うべきだった。……俺も初めてだったから、余裕がなかったんだ。……本当に済まなかった。」
そう言って、錆兎は頭を下げた。その錆兎の誠実な態度に、陽華の熱も一気に下がる。
「もう…いい。昔のことだし。」
気不味い沈黙が、二人を包む。
錆兎は頭を下げたままの姿勢で、あの時のことを思い返していた。
あの時は、無我夢中で何も考えてなかったな。知識もそんなになかったし。…確かにすごいキツイなって、思ったけど、後から考えれば、そんなに濡れてなかったからか?とか…思って、勝手に完結してた。
……いや、そう考えると、陽華はさらに痛かったんじゃないか?
うつむいた錆兎の顔がさらに青くなった。
そんなの俺、嫌われても仕方がないじゃないか。
……でもどうして、そんな痛い想いをしたのに、その後も俺と?
考えれば考えるほど、陽華という女がわからなくなる。