第1章 誕辰【※冨岡義勇】
「はい、これ。」
陽華は隣の部屋に用意していた義勇の羽織を差し出した。
「あぁ。醤油の染みは取れたのか?」
陽華の嘘を信じていた義勇が、真面目な顔で聞いてきた。陽華はクスッと笑うと、羽織を義勇に渡しながら言った。
「ちゃんと取れたよ。拡げて見てみて?」
義勇は言われるまま羽織を拡げて、驚いた表情を見せた。暫くの間、前、後ろを何度も確認すると目を輝かせて、陽華に聞いてきた。
「陽華、これは本当に俺の羽織か?…新品みたいだ。」
本当に嬉しそうな義勇の反応に、陽華も心から嬉しくなった。
「時間が出来たら繕ってあげようと思って、残ってる錆兎の着物の布とか、師匠に送って貰ってたの。良かった、喜んで貰えて。」
陽華がそう言って微笑むと、義勇は今度ばかりは逃がさないとばかりに、陽華を抱き締めた。
「本当に感謝する。どうしてお前はいつも、俺がしてほしいことがわかるんだ。」
「そうだったの?本当はもっと前にしてあげたかったんだけど、忙しくて後回しにしちゃってたんだよね。」
義勇は、可愛く苦笑いする陽華が愛おしくなり、さらに力強く抱き締めると、その額に頬を寄せた。
「お前は本当に出来た女だ。俺には勿体ない。どうして俺なんかに…、」
「ほら!また自虐的なってるよ?前を向くって、約束したでしょ?」
陽華に叱られて、義勇は思い出したように微笑んだ。
「そうだったな、すまない。」
「うん。さぁ、冷めないうちにご飯、食べよ?」
そう言って陽華は義勇から離れた。しかしその手を、義勇が掴んで引き留めた。
「夕飯を食べ終わったら、…お前も食べたい。」
「それはもうちょっと夜遅くなったらね?」
陽華は頬を赤らめながら言った。
言いながら陽華はドキドキしていた。やっぱりアレを実行しようと思っている。義勇は気にいってくれるだろうか?