第1章 誕辰【※冨岡義勇】
誕生日当日
陽華より遅く帰って来た義勇は、玄関まで漂う鮭大根の香りを敏感に感じ取った。
居間に入り、食卓に並んだ料理を見た義勇は、普段見せないような笑顔を浮かべた。
「義勇、おかえり。」
料理の入った器を手に、エプロン姿の陽華が台所から出てきた。
「お前が作ったのか?」
「うん、料理なんて久しぶりで少し自信ないけど…。」
修行時代はほぼ毎日のように料理もしていたが、鬼殺隊に入ってからはほとんど作っていない。鬼殺隊員は任務に出てることが多いし、柱はさらに忙しくて、それどころじゃなかった。今も料理の全ては義勇付きの隠がしてくれている。
「でも、作り方は師匠に確認したし、味見もしたから、鮭大根は美味しいはずだよ?」
そう言って微笑む陽華に、義勇は不思議そうな顔を浮かべた。
「なんで急に、料理なんかしたんだ?」
「やっぱり、忘れてた?今日は義勇の誕生日だよ?」
そう言われて、義勇はやっと思い出したように目を見開いた。
「そうか、俺のために。陽華、ありがとう。」
陽華だって忙しいだろうに。こんな自分なんかの為に時間を作って、尽くしてくれる。義勇の胸が熱くなった。
「俺は、本当にお前が好きだ。」
「何、いきなり?私も大好きよ。義勇、お誕生日おめでとう。……あ、それとね、」
義勇は感極まって、陽華を抱きしめようと、両手を差し伸べた。しかしそれは、何かを思い出した陽華によって、華麗に交わされた。