第1章 誕辰【※冨岡義勇】
宇髄家からの帰り道。さすがにそのままは嫌だと、風呂敷に包んで貰った如何わしい布を見つめながら、陽華はため息を付いた。
(もう、これにしちゃおうかな?)
などと、気持ちが傾き始めた時、たまたま不死川実弥に会った。
「…んな思い詰めた顔して、どうしたァ?」
そう実弥に問いかけられ、その思い詰めてたことが、自分の身体を贈り物とするか、しないか?と、言うこととは言えず、でもどうせなら、と実弥にも天元と同様の質問をしてみた。
「実弥だったら、誕生日に何を貰いたい?」
「なんだァ?…冨岡の誕生日でも近いのか?」
何となく察した実弥がそう問いかけると、陽華はコクりと頷いた。
「俺だったら、いらねェな。俺達はいつ死ぬか、わかんねェだろ?んなの死んだ後、片付けて貰うのに、邪魔なだけだァ。」
全くもってその通りで、だから義勇の部屋には何も置いてないのだろう。自分の部屋だってそうだ。
「…俺なら飯でも作ってくれて、一緒に食いながら、おめでとう…とか言ってくれりゃァ、それで満足だけどなァ。」
実弥の意外に普通だった価値観に、思わず陽華は感動した。
「先に実弥に相談すれば良かった。天元さんなんて、自分にリボンでも巻いて渡せ、とか言うのよ。」
「ア?」
実弥は一瞬、陽華のあられもない姿を妄想して、顔を高揚させた。
「…それはそれで。いや、なんでもねェ!とにかくだっ!」
実弥は自分が考えたけしからん妄想を、首を振って吹き飛ばすと陽華に言った。
「俺は、お前の気持ちが一番大事……じゃねェか?って思うけどなァ。」
実弥は言っていて恥ずかしくなり、目を反らした。陽華は実弥の意見に大きく賛同して、目を輝かせた。
「実弥って、意外にロマンチックな面も持ってたんだね。そんなもん、俺には関係ねェ!とか、言うと思ってた。」
「お前は、俺をなんだと思ってやがんだ。…まぁとにかく、頑張れよォ。」
そう言うと実弥は、陽華の頭をポンポンと二回軽く叩いて、去っていった。
「実弥ー、ありがとう。」
去っていく後ろ姿にそう声を掛けると、実弥は振り返らずに手を振って返した。