第3章 新しい生活
気がつくと、お父さんの部屋には私とお父さんしか居なくなっていた。
私は今まで溜めて、堪えていた涙が溢れてくるような感覚に陥った。
一度溢れたそれは、止めることができなくて、お父さんの腕の中で声をあげて泣いた。
初めは殺されると思ったこと
家族だと言われても、はじめての場所ですごく戸惑ったこと
自分が何もできないのに優しくされるのが申し訳なくて、自分が不甲斐なくて嫌だったこと
自分のことが分からなくていつも不安だったこと
時々感じる違和感に酷く戸惑うこと
本当は心休まることがなかったこと
そして、何より、心細かった
そう言うと、お父さんはぎゅっと、痛いくらい抱きしめてくれた。
触れ合った肌から感じる大きくて力強い鼓動が私の中の何かを揺さぶる。
お父さんは寂しくなったらいつでも来ていいと言ってくれた。
此処で羽を休めていいのだと、安息の場所をくれたようで、その言葉がとても心強かった。
それからもお父さんは嗚咽混じりの私の言葉を、何も言わずにずっと聞いていてくれた。
すっかり腫れた私の目元を、お父さんは指先で優しく拭ってくれた。
『…ねぇ、父さん、最後にひとつ、聞いてくれる?』
「いくらでも聞いてやらァ。言ってみろ。」
『私ね、怖いの。
もしもだよ、、、もし、記憶が戻って、私の帰る場所が無かったらって考えたら、凄く怖い。
もし、家族から捨てられていたらって考えたら怖いの。
要らないって言われたらって、考えたらとても怖い。
ねぇ、父さん。もし、私に帰る場所が無かったら、此処に居ても、いい?』
「グララララ!んなモン当たり前だ!!
此処はいつでもお前の帰る場所だ。例えお前に家族が居ようが、いつ帰ってきても構わねぇ!」
『っ、ありがとう、、、ありがとう、お父さん!』
私はもう一度、父さんに抱きついた。
父さんは優しく、それでいて力強く私を抱きしめ返してくれた。