第7章 魚人島
「菜々美、俺だ。」
『…』
父さん…
父さんが私の部屋に来るのなんて初めてだ。
「…入るぞ。」
『…』
ガチャ
「菜々美…」
ドアが開かれ、暗い部屋の中で丸まっている私の前に座った父さん。
…何も、、、何も考えられなくて、顔も見ずに膝に額を押し付ける。
「菜々美、顔見せてみろ。」
…いつもよりも優しく、ゆったりとした父さんの声。
想像していた以上の暖かい声色に、思わず少しだけそちらを向く。
「…そんなに目ェ腫らせて、、ほら、冷やしてやるから、こっちに来い。」
一度目が合うと、黄金の瞳に囚われて逸らせない。
暗い部屋でも優しい光を放つ瞳、、、
と、ひょいと膝の上に乗せられ、父さんの大きな手の中の冷たいタオルが私の目元を覆う。
「…魚人島の歴史は事実だ。
過去のこと、今更誰にも変えることはできない歴史。
お前が気に病むのは無理はないが、お前が負い目を感じることはない。」
父さんはタオルの上から優しく目元を撫でる。
「…確かに、この島の奴らは人間を憎むことはあった。
だが同時に、人間を愛することもできた。
ネプチューンと俺が友であるように、人魚姫とお前も友として隣にいることはできるんじゃないか。」
『…でも、、、でも、ね、』
またじわりと涙が溜まる。
『…私は、あんな話を聞いてしまったら、、しらほしのお母様が亡くなったのが人間のせいだなんて知ったら、、、もう、会いになんていけない…』
枯れることのない涙が冷たいタオルを熱くする。
『…っ、それに、奴隷なんて、、、私は、、私は、人間であることが恥ずかしくて悔しくて…どうにかなりそうだった、』
『…少しでも嫌なことを思い出させてしまうのなら、、私はもうしらほしに会いには行けない』
私は身体を再び小さく丸め、父さんの瞳から逃げた。