第7章 魚人島
「…お二人共、失礼してもよろしいか。」
「ジンベエじゃもん。」
「あぁ。入れ。」
ガチャ
ジンベエは暗い顔で部屋の中に入ってきた。
…その目元は微かに腫れている。
…菜々美の姿が見えない。
ジンベエには城へ連れ帰るように言っておいたはずだが。
「…菜々美はどうした。」
「船に送って来ました。
城へ戻るのをひどく嫌がりまして、、、」
申し訳なさそうにジンベエは言う。
…嫌がるのを無理矢理連れて来ることはない。
「そうか。悪いな。」
「いえ、ただ…やはり話さぬほうがよかったのでは、と。」
「…そんなに酷かったか。」
「えぇ、廃人のような目をしておられた。」
廃人、か。
…いつもはキラキラと宝石のように輝く瞳。
その瞳に光がないとは、、、俺の想像以上に菜々美はショックを受けてしまったらしい。
「…最後の方は静かに止めどなく涙を流されるのみで、、、正直、見てられなかった。」
「…すまねぇな。酷な役回りを負わせちまった。」
「儂は構いません。」
「ニューゲート、今日はもう帰れ。
彼女の側におるべきじゃ。」
「あぁ。そうさせてもらう。」
俺は腰を上げて足早に城を去った。
…普通の娘なら、多少胸は痛めど、ここまで塞ぎ込むことはなかっただろう。
…記憶を失くし、精神が周りと比べて子供だからか、生来の性格故か、、、菜々美は人の倍負の感情に囚われてしまう。
…しかし、いつかは話さねばならなかった。
そんな菜々美だからこそ、実際に自分の周りに同じようなことが起これば心が壊れてしまう。
…そうなる前に、耳に入れておくべきだったのは間違いない。
だが…
やはり娘の涙は見たいものではない。
…世界の闇とは無縁の生活を送らせてやることができればどれほどいいか。
こんな歪んだ世界では、叶わぬ希望。
…船から出さなければ或いは可能かもしれないが、それでは菜々美は輝かない。
俺はなんとも言えない感情を吐き捨てるようにひとつ息を漏らした。