第7章 魚人島
「突然、集めた署名の箱から炎が出てんじゃ。
勿論現場はパニックに、皆署名を守ろうと、火を消そうと全力を尽くした。
…しかし、それと同時に凶弾が王妃を襲った。」
『…』
「どこからか撃たれた弾は王妃の心臓に直撃した。
王妃は王子と姫の目の前で倒れ、彼らに犯人がどこの誰であれ、憎しみに囚われず、怒りに呑まれないで欲しいと、そう言い残して目を閉じられた。」
目の前で、お母様を亡くして…
しらほしの思いが、しらほしがどれだけここに来たかったか、、、その気持ちが痛くて苦しくて、涙が溢れる。
「…儂は軍におった。
部下が犯人を仕留めたと報告があり、そこへ向かった。
…そこで倒れておったのは人間の海賊であった。」
『嘘…』
「…隠そうとしたが、部下の人間への怒りはその事実を隠しきれなかった。
魚人島で誰よりも人間を愛し、人間に歩み寄ろうとした王妃を人間が殺した。
その事実により、再び魚人族は人間との歩む道を進めなくなったのじゃ。」
今までずっと人に寄り添おうとしてくれたのに、それを簡単に踏み躙るなんて…
何故、、、?
何故、そんなことができるの…?
「…オトヒメ王妃の最後の言葉。
犯人が誰であっても憎まず、怒りに囚われるな、というあの言葉。
儂はどうにも王妃が自身を撃ったものが誰かわかっておったのではないかと思えてならん。
自分を撃ったのは確かに人間ではあるが、人間を憎まず、人間との共生を諦めるな、というメッセージに聞こえてならんのじゃ。」
私はボロボロと溢れる涙を止められないまま、この美しい島に根付く悲しい歴史に胸を引き裂かれるようだった。
…自分が人間であることが嫌になるほど、この歴史は悲しく、苦しく、そして悔しいものだった。