第7章 魚人島
「儂等はただひっそりとこの海底に住み、ここにある僅かな空気と光しか知らずに生きてきた。
それがみな当然じゃと思っておった。
…そんな中、2人の英雄がこの国に生まれた。
1人はしらほし姫の母上、オトヒメ王妃。
もう1人はタイヨウの海賊団船長、フィッシャー・タイガー。
2人の生涯はどちらも無念の形で幕を下ろしたが、儂等の中にはいつも彼らの心は生きておる。」
ジンベエ親分はオトヒメ王妃のお墓を見ながらそう言う。
私は何も口を挟むことはできなくて、ただ静かに手を握っていた。
「…オトヒメ王妃は、地上へと魚人島を移そうとしたのじゃ。
人間を恐れず、人間に歩み寄り、共に生きようと奮闘された。
子供たちが歩む未来が明るくあるようにと、毎日毎日皆に呼びかけてきた。」
きっと、底なしに優しく、深い心を持っていた方だったんだろう。
当たり前に根付いていた人に対する恐怖を引き剥がし、今までのおかしかった当たり前を変えようと力を尽くすのは難しい所の話ではない。
「…対して、フィッシャー・タイガーは人間との訣別を叫んだ。
聖地マリージョアをたったひとりで襲撃し、数多の奴隷を解放した。
タイガーは奴隷解放の英雄となったと共に、世界政府に対抗し、人間との溝を深めた。
…もちろんそれはオトヒメ王妃の首を絞める結果となった。」
『…』
「タイガーを慕っていた者たちと元奴隷であった者たちはタイヨウの海賊団を結成し、海で暴れ回った。
勿論ワシもそのうちの1人じゃ。
そんなある日、1人の人間の少女が船に乗り込んだ。
その少女は元奴隷の1人であり、タイガーによって救われた娘じゃった。
儂等は彼女を故郷へ送り届けることを決め、航路をその娘の故郷へ向けた。
時間はかかれど、一部の魚人たちを除いて少女は船の一員として受け入れられていった。」
「そして彼女の故郷へ無事に辿り着いた時、事件は起こった。」