第7章 魚人島
『っ、、、私、もう一回しらほしと話してきます。』
「そうか。行ってこい。」
パタン
菜々美がパタパタと走って行く音が遠ざかっていく。
俺はその音を聞きながらぽつりと呟いた。
「菜々美は魚人達の歴史を欠片も知らねぇ。
…過保護な兄貴達がそんな世の中の暗い闇を聴かせたがらないからな。」
純粋無垢の菜々美。
真っ白のキャンパスのような菜々美は、家族の手でさまざまな鮮やかな色を重ね、穢れを知らない。
そこに黒を差すのは誰もが躊躇う。
「だが、この世界で生きていく以上、いつかは必ず耳にする。
…いつかは教えてやらないといけない。」
最悪のパターンは、その闇を知らずに、身をもって体感することだ。
知識もないまま、避ける術も知らず、逃げる方向もわからないままその闇に飲まれたら、まず無事では済まない。
そうならないよう、歴史もある程度知っておくべきだ。
それで避けられる危険もある。
「…俺の息子達が菜々美にソレを教えることで恐れているのはふたつだ。
ひとつは菜々美自身の記憶。
もうひとつは純粋すぎる菜々美が壊れてしまわないか。
…だが、話すべきなのは、恐らく今なんだ。
…俺の勘だが、今、この島にいる間に教えるべきなんだ。」
魚人島の歴史を語れば嫌でも世界の闇を垣間見ることになる。
そのチラリと見えた黒を灰色に変えながらキャンパスの中に入れていく。
この島にいる今が黒を見せる時だ。
それから菜々美は自分の力で薄めながら吸収していかなければならない。
それが、17年間でゆっくり知識を吸収できなかった菜々美が壊れない為の最善だ。
俺はゆっくりと目の前の親友達を見た。
「…ひとつ、頼まれてくれねぇか。」