第7章 魚人島
「…菜々美さん。」
と、声を発したのはネプチューン王。
私は父さんの腕から抜けてそちらに向き直る。
「菜々美さんの申し出はとてもありがたい。
ありがたい上に白ひげ海賊団の隊長格が同行するならしらほしの身も安全かもしれん。」
『なら、』
「だが、ダメなんじゃもん。
…あの忌々しいバンダーデッケンの脅威がある以上、しらほしを守るためにも、あの子をあの塔から出すわけにはいかん。」
『っ、そんな、』
「菜々美、じゃあお前、人魚姫がもし傷ついたら責任取れるのか?
そうならばネプチューンや王子達がどう思うか?」
『でも…、』
「…菜々美。今回はダメだ。聞き分けろ。」
『っ、』
父さんにそう言われて、ピクリと肩が揺れ、悔しくて悲しくて、後から後から涙が溢れる。
『っ、、、でも、しらほしね、もう8年もあの塔に、、外に出れないって、、、あんまりに可哀想で、、ただ、外に出るだけなのに、、それだけなのに、、』
友1人守れない自分の弱さが悔しくて、自分の一言であんなにも傷つく友を見ていられなくて、悲しくて、悲しくて、涙が止まらなかった。
ひとしきり泣いた後、父さんに抱えられ、暖かい温もりに包まれる。
と、気づけば目の前には席を立ったネプチューン王。
「…しらほしは本当に良い友を持ったようじゃもん。
娘のために泣いてくれてありがとう。
その言葉達だけで儂等は嬉しかった。
…今は無理でも、いつか、いつかバンダーデッケンの脅威が去ったら、その時はしらほしを連れて地上へ遊びに行ってはくれぬか。」
『っく、、っ、はい。』
「…お主の娘は優しい子じゃもん。」
「グララ、俺の娘だからな。」
「っ、」
白ひげは黙って話を聞いていたジンベエが目頭を押さえて震えているのを視界に捉えた。
…姫を狙う海賊だけでない。
世界の人間達と魚人達の溝が、その涙を誘うのだろう。
ネプチューンの目尻にもキラリと光の粒が見えた。
…この景色が世界の縮図になればどれほど良いか。
歴史を知らなくても築ける種族間の友情。
歴史を知らないからこそ築ける関係。
どちらにしても、今この場で流れる涙は世界で一番美しいのだろう、と、世界最強の男は腕の中の小さな娘を抱く力を強めた。