第7章 魚人島
「して、ニューゲート。あの娘、随分とのびのびとしておったように思うのじゃもん。
海賊とは無縁なように見えるが、なぜ船に乗せたんじゃもん?」
「…」
「…わしは一旦席を外しましょうか。」
ジンベエは腰を浮かせながらそう言うが、白ひげは片手を上げてそれを止めた。
ジンベエは再び腰を下ろすと、白ひげの言葉を待つ。
「…菜々美にゃ、記憶がねぇんだ。」
「記憶?」
「あぁ。ある日突然血まみれで船に現れ、自分のことを何ひとつ覚えていなかった。
持ち物も不可解なものばかりで、持っていた書物に書かれていた文字はワノ国の古代文字。
イゾウがそれをなんとか読み解き、名前はわかったが、その他の素性は全くわからない。」
「…」
その場に重たい沈黙が流れる。
「それからはウチの船で家族として迎え入れ、過保護な兄貴達に囲まれ、最近ようやく慣れてきたところだ。
記憶が抜けてるせいで歳の割に少し幼いところはあるが、頭はかなりいい。
今じゃウチの船には欠かせない大切な末っ子だ。」
「そうだったんじゃもん。
…お互い、娘には重たい枷がついておるな、、、」
「そうだな。」
そう言って甲殻塔の方角を眺める2人の男の顔は父親そのもので、優しく細められた目にはさまざまな複雑な思いが混ざっていた。
「ネプチューン。アルカナは知ってるな?」
「?あぁ。あの一時期裏の世界で囁かれた謎の男の話じゃもん。」
「…」
「俺ァ、菜々美はそいつの仲間、、、いや、そいつの同じ類の人間なんじゃねぇかと思ってる。」
「アルカナとはそもそも存在すらが謎。
手がかりもほとんどない。なぜそう思うんじゃもん?」
「俺ァ死ぬ前のロジャーと飲んだ時、アルカナについて少し知った。
確かな根拠はねぇんだが、最近どうもあのやりとりが頭をチラつくんだ。」
ジンベエとネプチューンは白ひげの顔を見ながら言葉を待つが、白ひげは2人の顔を見ることはなく、じっと甲殻塔の方を見つめ、それ以降口を開くことはなかった。