第6章 海底10000メートルの楽園へ
「菜々美!来た来た!ほら見てよ!!!」
『…ぁ』
上を見上げると太陽の光がキラキラと水面から輝いて見える。
さらにシャボンで光が分散して甲板には七色に分かれた鮮やかな色彩が広がる。
それをぼんやりと眺めた後、みんなが指差す方を見た。
そこにはたくさんの白い小さな魚が1匹の大きな魚の後ろを追いかけるように並んで泳いでいた。
それぞれの魚の鱗に光が反射して瞬く星のように煌めく。
それを見て少年のようにはしゃぐクルー達。
私はその全ての風景をまるでスクリーンに映し出された映像のように眺めていた。
「菜々美!何シケたツラしてんだよ!!」
『わっ!』
バシンと背中を叩かれてハッと我に帰る。
私の後ろから笑って姿を表したのはサッチ兄さん。
今、私はここにいるような、いないような、、みんなの中にいてはいけないような、、、そんな変な感覚に陥っていた。
「見ろよ!あの魚達俺たちみたいじゃね?
前のでっかいのがオヤジで、後ろ付いてくのが俺ら!」
「本当だ!ありゃ親子だな!!」
「じゃああの1匹だけ違う種類の赤いやつは菜々美だな!」
「あぁ!菜々美は唯一の娘だもんな!」
『ほんとだ。1匹だけ赤い…』
私はその唯一赤い魚をじっと見つめた。
その魚はこちらに泳いできて、私の前で不意に止まる。
『…』
しばらくじっとお互いを見つめていたが、興味を無くしたのか、群れから離れるのが嫌なのか、すぐに私の前から離れていった。
「あー、みんな行っちまった。
またな!」
みんなが口々に魚に別れを告げる。
私も見えなくなった群れを思いながら再び青く深い海を眺めた。
赤い魚が1匹だけ群れを離れたのには誰も気づかないまま、白い鯨は暗い深海へと深く深く沈んで行った。