第5章 新世界の航海
コンコンコン
「俺だ。入るよ。」
ガチャ
俺が部屋に入るとやっぱり布団にくるまって丸まっている菜々美。
顔すら出してない。
俺はベッドの隣のテーブルに粥と白湯の入ったトレーを置き、隣の椅子に座る。
覇気で起きているのは分かっているが、本人は狸寝入りを通すようで、ピクリとも動かない。
「菜々美、起きてるだろ。分かってるから、出ておいで。」
『!』
菜々美は布団の中で驚いたように跳ねた。
そして何やらゴソゴソと動いた後、顔だけひょこりと出してきた。
いつも通りの顔をしているように見えるが、目尻に涙の跡が残っている。
「どうした。なんで泣いてたんだ?」
『…泣いてない。』
そう言ってぷいと俺に背を向ける菜々美。
女はこういう時期は気持ちが不安定になるらしいからな。
変に溜め込んで1人で泣かせるのも嫌だ。
俺は菜々美にもう一度話しかける。
「菜々美、大丈夫だ。
我慢しなくていいんだぞ、こういうしんどい時こそ俺たちを頼ってくれ。
少しでいい。話してくれないか?」
菜々美の小さな頭を撫でる。
菜々美はしばらく黙ったままだったが、少しすると撫でていた頭が小さく震え始めた。
『…あのね、、みんなのこと、大好きなの。
大好きなのに、今は話すのも笑うのも、、だるくて、動くのも面倒で、、、マルコ兄さんも心配してくれてるのに、面倒だからって、、何もする気になれない私って、すごく、すごく嫌な子だなって、、、』
「そうか。」
菜々美は肩を震わせて涙声になりながらそう訴える。
「菜々美、おいで。」
『イゾウ兄さん…』
俺は菜々美に向けて両手を差し出す。
菜々美は潤んだ瞳をこちらに向けて、俺に向けて手を伸ばした。
俺はなるべく腹回りを動かさないように膝の上に菜々美を乗せた。
菜々美は俺の上で丸まって、胸元の着物をキュッと握って下を向きながらポロポロと涙を溢す。