第4章 初上陸
コンコンコン
「オヤジ…」
「入れ」
ガチャ
「グラララ、ひでぇ顔だな。マルコ。」
「元々こんな顔だよい。」
俺は扉を閉めると、オヤジの元へと近寄った。
「菜々美が酒飲んでぶっ倒れたって言ってたよい。」
「あぁ。俺がそう言った。」
「だろうねぃ。…覚えてなかったのか?」
「あぁ。ティーチと話したことすら、な。」
「そうか…」
それは、いいのか悪いのか、、、
ただの兄の安直な考えとしては、あの痛みを覚えてないのはよかったと思う。
だが、医者としては、、、記憶を探ろうとした記憶すら忘れさせる。
それほどまでに、菜々美の本能は菜々美の記憶を呼び起こしたくないのか、と、どれほどの記憶を消したのか、と不安になる。
「マルコ、」
ふと、オヤジが俺を呼んだ。
顔を向ければ、俺の方を見ていないオヤジの姿。
「菜々美には、家族がいた。」
「は、」
「アイツには、愛する家族がいた。」
「そう、か、、、」
…妹を愛してくれる人がいた。
妹は家族に愛されていた。
こんなに幸せなことを、どうして兄の俺は素直に喜んでやれないのか。
それから俺はオヤジに、船員に菜々美は間違って酒を飲んで寝てしまったことにする連絡を入れることを告げ、俺はさっさとオヤジの部屋を去った。
…別に、決して逃げたわけじゃない。
ただ、菜々美がシャワーを浴び終えて、誰かに会ったときに本当のことを告げられないよう、早く連絡をする必要があっただけだ。
ただ、それだけだ。