第4章 初上陸
それから、オヤジの部屋へ行くとそこには小さなベッドが用意されていて、菜々美が眠っていた。
先ほどよりも少し顔色が良くなった気がする。
「…マルコ、何かわかったか?」
「いや、正直何も確証を得られなかった。
ティーチと話していたこともそんなに問題視するようなことでもなかったよい。」
「…そうか。」
俺たちの間に重たい沈黙が流れる。
規則正しい菜々美の呼吸音だけが、俺の鼓膜を震わせた。
「マルコ、俺ァ医者じゃねぇからわからねぇが、、、
菜々美は、自分で記憶を閉じたんじゃねぇのか?」
「…俺もさっきの菜々美を見てそう思ったが、、、確証がない。
記憶については菜々美意外にゃ誰もわからないよい。」
「…そうだな。」
オヤジは、菜々美の顔を見ながら、呟くように言った。
「以前はな、ゆっくり記憶を戻していって、本当の家に返してやりたいと思っていた。
…だが………こんなにも苦しむのなら、いっそのこと思い出さなくていいんじゃねぇかと思っちまう…」
オヤジは壊れ物に触れるかのように、菜々美の顔に触れた。
それはちゃんと菜々美が生きているか確認しているかのようにも見える。
「…例え記憶が無くても、いつまでも共に旅をしていけばいいんじゃねぇか。
俺たちが失った記憶以上の幸せを与えてやればいいんじゃねぇか、と。
………娘の記憶が戻らなくていいなんて言う俺ァ、親父失格かもな。」
「オヤジ…」
そう言って、自嘲気味に笑うオヤジに、俺は何も言えなかった。
俺も、オヤジと同じように、そう思っていたから。