第4章 初上陸
「で、何話してて菜々美がああなったか教えてくれよい。」
「…あ、あぁ。」
ティーチ、、、でっぷりとした体のこいつは本の中の海賊をリアルにしたような佇まいだが、温和でそんなに目立たない古株のクルーだ。
俺が見習いの時から居たから、かれこれ20年以上の付き合いだ。
「…俺と菜々美は初めて会ったから、まずは互いに挨拶したんだ。
菜々美に記憶がないことは知ってたから、まずは他愛のない話から始めようと思った。」
ティーチは菜々美が錯乱したことに責任を感じているようで、話すスピードが遅い。
…だが、菜々美の記憶のトリガーがわからない以上、避けられなかったはずだ。
ティーチは悪くない。ただ会話の中で偶々その引き金を引いてしまっただけだろうから。
「…それで、菜々美が居たところとここでは文字が違うって聞いて、、、菜々美は俺たちの文字は読めるが、俺たちは菜々美の文字は読めないとか、そんな話をしていたら急に…」
「…そうかよい」
…ティーチの話を聞いてもいまいちきっかけが掴めない。
言語のことなら俺ともイゾウとも、何度も話した。
何故今になって急に?
…いや、会話じゃなくてここから見えた視覚的な何かが菜々美をあんな風にさせたのか?
クソッ、、、わからねぇ。
「…なぁ、マルコ隊長。
菜々美の記憶は戻るのか?」
「………記憶喪失ってのは、頭から完全に記憶が抜け落ちる訳じゃねぇ。
頭の深いところに記憶を押しやっている状態のことを言う。…つまり、覚えていない記憶もしっかり菜々美の頭には存在する。
…だから、戻る可能性は確かにある。」
「…そうか。」
「…だが、それが何年先か、又は何十年先かは誰にも分からない。
ふとした時に思い出すこともあれば、さっきみたいに、何かがきっかけになって思い出すこともある。」
俺はティーチに背を向けて、海を見ながら言った。
見えはしないが、きっと心配そうな顔を浮かべていることだろう。