第4章 初上陸
飲み比べをしていたら、ティーチが俺を呼ぶ声がした。
近くへ寄ると、頭を押さえて蹲る菜々美。
何かぶつぶつ言っているが、混乱しているのか、全く聞き取れない。
これは…記憶を無理に掘り返そうとしているのか?
「菜々美!
考えるな、思い出そうとしなくていい。」
そう声を掛けても聞こえているのかすらわからない。
苦しむ様子は変わらないまま、周りのギャラリーだけが増えて心配そうに見つめる。
「菜々美、俺を見ろ!
誰かわかるか!?」
聞こえているなら、頭の中の記憶の世界から、こちらの現行の世界に繋げてやれば落ち着くかもしれない。
そう思って、菜々美の背中と肩を支えて視線を合わせる。
菜々美は目尻に生理的な涙を浮かべ、汗の滲んだ額もそのままに、俺と目を合わせた。
聞こえてはいるようだ。
『マルコ、兄、さん、、、っあぁぁぁあっ!!』
「菜々美!?」
何故だ?
俺の名を呼んだ瞬間、酷く痛んだようだ。
『やだ!わかんない!!』
急にそう菜々美は叫ぶ。
今の菜々美本人も記憶を戻すことを拒絶してる。
自分で記憶に蓋をしたのか?
『マ、、コに、さん、、こわい。』
「大丈夫、大丈夫だ。
オヤジも俺もみんなここにいるよい。」
俺の服の裾を握って、小さな声でそう訴える菜々美。
できる限り優しく、落ち着くように声をかけることしかできない自分が歯痒い。
『っ…』
「菜々美!」
刹那、ぷつんと糸が切れたように、菜々美の体から力が抜けた。
支えていた背中の腕に力を込めて抱き締める。
…ショートしたか…
気を失った菜々美の顔は真っ白で、先程の花のような笑顔とは似ても似つかない。
疲れ切ったような顔をしていた。