第8章 第六夜
シンタロー宅にて。
シン「まぁ、適当に座っといて。」という この家の主の言葉で、俺たちは 各々好きな場所に座った。
今日は シンタロー母は外出していて、明日まで帰ってこないそうだ。
•••あきらかに「誰か」の息がかかっているような気がするのは 俺だけだろうか。
セト「どうかしたっすか?」
もんもんと 一人考えていると、セトが顔を覗き込んでいた。
『ん〜、何でもないよ?』
俺の 途方もない妄想•••だと思いたい考えを わざわざ言う必要もないと思い、笑って誤魔化す。
すると セトは眉間にシワを寄せ、グイッと顔を俺に寄せた。
セト「隠し事っすか?」
『ぇ?ってかセト 顔、近い。』
つい口に出た 声への動揺を隠すように、俺は 頭をのけぞらせて セトと距離をとった。
とった•••のだが、残念ながら 俺はソファーに座っているため、いくら距離をとろうとしても 背もたれが邪魔で、たいして効果はないのだ。
セト「カイトにいちゃん?」
セトの 整った顔が徐々に距離を縮める。
周りを見ると、ここは ちょうどコノハやカノがいるところからは死角になっているようだ。
•••つまり、自分でこの状況を打破しなければならない。
『セ•••ト?』
おそるおそる 名前を呼んでみると、セトは ピタッと動きを止め、口を開いた•••と同時に、
ヒビ「早めにごはんにするから手伝えってー お兄さん早くー。」
少し大きめなヒビヤの声が聞こえた。
セトを チラッと見上げると、一瞬 不機嫌そうな顔になったあと、俺を見て ニコッと笑った。
セト「•••行こうっす。」
『う•••ん。』
セトは 何を言おうとしたんだろう•••なんて思ったのは最初だけ。
なんとも美味そうな 夕飯の匂いが 俺の鼻をくすぐるのと同時に、俺の全思考は 今日の晩飯へと 持って行かれていた。