第15章 第十夜、丑の刻
真っ白な煙が 空気に踊る。
「あんたらが何者なのかなんて野暮なこたぁ聞きゃしないけどさ、カイトはね、今は仕事の時間なんだよ。わかるかい?……まったく、たった一仕事終わるまですら待てないなんてね。予想外だよ」
呆れたような口調が耳に痛い。
思わず下を向いてしまった僕とは反対に、セトはジッと目の前の女の人を見つめた。
セト「あの…セッタイベヤってなんっすか?」
反射的に前を向くと、セッタイベヤという単語を聞いた女の人はピクリと眉をあげたのが見えた。
「…………どこで聞いたんだい?」
セト「……さっき、外にいた女の人たちが話してたんっす」
しばらく睨み合いを続ける2人。先に折れたのは、女の人の方だった。
「……………ガキじゃあるが、大人じゃないわけでもない…だね。まぁ、仕方ないか」
キセルを吸って、少し長めに煙を吐く。
「接待部屋ってのは、行動に問題のある客やら南蛮の客やら…とにかく、扱いが面倒な客が来るのさ。だから、売られる女は、高いかわりに技があるやつらか、もしくは殴られようが、あるいは 殺されようが揉み消せるやつ。そんな場所だよ……今代のお頭様が作ったらしい」
少し忌ま忌ましそうに言い切って、小さなため息をつくと、その人は再び話し出した。
「そろそろ気づいてるとは思うけど…ここは女の春を売る遊女屋だよ。ただ、あのカイトって子は特別でね。影間茶屋では働きたくない、女役はできるから遊女屋で働かせてくれって言ってきて、それで接待部屋で働いてんのさ…あんたらが拾った板はその印……あんまり、店の子の話はしない方がいいんだけどね」
じゃあ、今度こそちゃんと待ってるんだよ。と締めくくり、女の人は忙しそうに去って行った。
僕たちは ただ、カイトにぃが戻って来るのを待つことしかできなかった。