第15章 第十夜、丑の刻
歩くたびミシミシと音の鳴る床。
飴色の板は滑らかで、裸足でなければ滑っていたかもしれない。
「ここで待っているといい。厠はこの廊下を右だよ」
俺たちを案内してくれた女の人は、ある部屋の前で立ち止まると同時にそう言い残し、すぐに歩き去った。
カノセト「……………」
無言……無言……無言……
セト「……ここってなんの店なんすかね」
静かな空気に耐えられず、カノに話しかける。
カノ「ん〜、なんだろうね」
首を捻るカノ。
カノ「しかし、ホントに僕たちタイムスリップしちゃったのかなぁー。なんか信じられないな」
セト「と言っても、どう見てもココは現代じゃないっすよ。ちょんまげに着物に刀に牛車っすよ?もうビックリしすぎて逆に冷静になった気がするっす」
カノとしばらく話していると、外から声が聞こえてきた。
「……でね?今、カイトさんが相手してるんだって」
「えー!あの人、頭がオカシイって話でしょ?大丈夫なの?」
「そうなの。いくらお客様だと言っても…この前だって、柚子のあねさまが乱暴されそうになったとか」
「たしか…橘のあねさまもだったはずよね。ああもう!どうしてあのジジイ出入り禁止にならないのかしら!」
「牡丹のあねさまが抗議してるらしいけど、あのジジイ…問題を起こすたびに葛のお頭様にお金を渡して帳消しにしてるらしいわ」
「葛のお頭様も悪いのよ!お金で全部解決なんて!!あーあ…牡丹のあねさまがお頭様になればいいのになぁ」
「そうね、たしかに…でも「あんたたち、なにサボってんだい!!」
「「お頭様!!」」
「随分と楽しそうに話していたようだけど、なにをしていたんだい?」
「い、いえ、なにも」
「フンッ、そんなんだと あのカイトって子と一緒に接待部屋に送ってやるよ?」
「それだけはやめてくださいッ!」
「…まぁいい。仕事をしなければ接待部屋行きだ。せいぜい頑張りなさい」
「「はい…」」
「お頭様」の嘲るような声とともに、パタパタと足音が遠ざかる。
頭がオカシイ•ジジイ•乱暴される…
セト「カノ…」
カノ「うん。もしかしたら…」
((カイトにぃが危ないかもしれない!!))
そうして、俺たちはコッソリと部屋を抜け出した。