第15章 第十夜、丑の刻
カノ「あの、青っぽい…いや、灰色っぽい?着物の男の人が通ったの見ませんでした?」
セト「髪を一つ結びにしてるひとで、多分こっちに走ってきたはずなんすけど」
どうやら、他人に僕たちが見えていないなんてのは ただの勘違いだったらしい。
町の道行く人に尋ねながら、カイトにぃを探していると、やがて、大きな建物にたどり着いた。
カノ「すみません、だれかいますかー?」
藍色ののれんをくぐって中に入った僕たちに、煙が吹きかけられた。
カノセト「「げほっごほっ!」」
吸い込んだ煙に涙目になりながら、煙の出処を探す。
そこには、煙管を片手にこちらを眺める、目に痛いくらい鮮やかな赤い着物を着た女の人が座っていた。
「おや、この店に来るにはちょっとガキくさいんじゃないかね」
開口一番に、随分と失礼なことを言われる。
しかし、セトは「この店って、なんなんっすか?」と気にする様子もなく疑問を口にする。
「知らずに入ったのかい?じゃあ、さっさと出て行きなさい。ここは子供の来るトコじゃないよ」
呆れたような口調の彼女に、僕はムッとしつつカイトにぃの落し物を見せる。
カノ「これをカイトにぃ…カイトが落としたんだ。僕たちはそれを届けに来ただけ」
「あー、なるほど。あの子はちょっとドジなトコがあるからねぇ。わざわざ すまないね。そういうことならいいよ、あと半刻もあればあの子の仕事も終わるはずさ。奥で待つなら案内するよ?」
チラッと僕を見るセト。
セト「……それならお願いするっす」
こうして僕たちは、その女の人に連れられて怪しげな店の中へと入って行った。