第14章 第十夜、子ノ刻
ゆっくりと地面に崩れ落ちるカイトにぃの体。
キド「カイトにぃ!?!」
一瞬だけ俺を捉えた灰色の瞳が、瞼に覆い隠された。
キド「カイトにぃッ!」
慌てて抱き起こすが、外傷はない。
ただ、荒い呼吸音だけが唇から漏れている。
キド「……とにかく、どこか休める場所に」
俺はカイトを背に乗せ、足を踏み出した。
エネ「団長さんッ!後ろ!!!」
『ゔッ』
キド「いった…!」
カイトの呻き声と同時に背中にチクリとした痛みを感じ、後ろを振り向く。
そこには、さっきカイトが倒していた男の1人が立っていた。
脂汗が滲み出ているのか、顔がテラテラと光っている。
だらりと垂れた右腕の、肘と手首との真ん中からは、ぼたぼたと赤い液体が滴り、痙攣を起こしていた。
男が後ろに下がる。
『ゔッあ…』
うっすらと目を開けたカイトが、背中からずり落ちた。
カイトが再び崩れ落ちた地面が、彼を中心として赤い波紋に侵食される。
キド「カイト…にぃ?」
後ろに下がった男の手には、血が纏わり付いた包丁が。
男「は…ははは…ははははははッ。ざまぁみやがれ、このクソヤロウが!ははははははッあはははッひはッひヒッヒヒヒヒヒヒッ」
引きつった笑い声をたてる男の手から、包丁が滑り落ちる。
先が鋭く、刃の部分だけでも20cmを超えるその包丁に、カイトは貫かれていた。
刺された傷跡からはとめどなく血液が流れ出し続ける。
キド「カイト…カイトッ!しっかりしろ!!カイト!!」
叫ぶようにカイトの名前を呼ぶ。
しかし、カイトの目はゆっくりと閉じて行き…
キド「あああああぁああぁあああああーー!!!!」
俺の背後では、あの男が狂ったように笑い続けていた。