第14章 第十夜、子ノ刻
……血の匂いがする。
すでに空き地を遠く離れ、血に濡れたパーカーはコインランドリーの洗濯機に放り込んだ。
公園の水場で、手も顔も洗ったのに、まだ、鼻の奥に血の匂いがこびりついて離れない。
乱暴にバシャバシャと洗い続けていると、さっき仔犬を預けたヒトが近づいてきた。
キド「仔犬は、病院へ連れて行ったぞ」
『あ、うん…ありがとう。この服じゃ病院とか行けないから助かった』
「『………………。』」
そういえば、このヒトには さっきの奴らに対する暴力を見られてたんだっけ。
……気まずいな。
『……じゃあ…俺はこれで』
キド「あっ、まって…」
そそくさと逃げようとしたら、相手に腕を掴まれた。
『え、と…なんですか?』
キド「…………カイト…だよな…?」
ガ
ツ
ン
鈍器で頭を殴られた気分だった。
『な…んで』
キド「え」
『なんで俺の名前を知っている。どこで聞いた、どこでッ、まさか、お前はあいつらの手先か?!俺をまた捕まえに来たのか?!イヤだ…俺は戻らない…ゼッタイに戻らない戻らない戻らない!!!戻らないからなッ。はやく消えろ、俺の前から今すぐに消えろ!じゃないとお前もあいつらみたいに殺してやる!!!』
相手がひどく驚いているのが見えた。
けれど、俺は…「あの場所」へ連れ戻されるんじゃないかという恐怖でいっぱいで、相手を気遣う余裕なんてなかった。
震える体を抱きしめながら、怒鳴り散らしていると、くらりと視界が揺れた。
キド「カイトにぃ!?!」
俺が最後に見たのは、驚愕と心配で表情を歪ませる少女の顔だった。