第1章 孤独な蠱毒
〜 蠱毒 視点 〜
綺麗な歌声が聞こえた。
それはどこか寂しそうで、でも外が暑かった私は
声のする方へと入っていった。
゙ おや、可愛い虫さんね。私の話し相手になってくれるのかしら? ゙
金色の髪を結った人間は、幼い私の体をそっと抱き上げて涼しい場所へと入れ、いつも新鮮な食べ物をくれた。
生まれた時に食べた葉の味ではなかったけど、
お腹が空いてたから黙々と食べながら、話を聞いていた。
自分のお腹に触れ、ここに子供がいると言った。
そして、子供の為にこの部屋にいて、
虫が話し相手になる事も…。
優しい声で、いつも話し掛けてくれるのが嬉しかった。
゙ アナタはきっと、綺麗な蝶になるのね。飛べない私の代わりに、飛んで頂戴ね ゙
外を望み、外を求める人間に、私はカゴから見える光を見て、顔を背けた。
外は暑くて、たくさんの敵もいた。
あんな場所は懲り懲りだと思うのに、この人間は外を望む。
幼虫のまま成長していれば、時々この部屋に虫が入ってくる。
゙ !! ゙
驚いて逃げようとした私に、人間はそっとその虫を掴んだ。
゙ あら、蜂さん。その子は食べてはダメよ。私の大切な友達なのだから ゙
人間はそう言って、鉢を大きなツボの中へと入れた。
アリも、カマキリも、ムカデも、この部屋に現れる虫は全てあの中へと入って出て来なくなった。
私を助けてくれるんだと知り、私も人間に出来ることを考える。
けれど、何もなくて、蛹になった後もずっと声が聞こえてきて、冬頃に春と勘違いして早めに外に出てきてしまった。
乾燥してパキパキになった羽をすべて広げることが出来ず、飛べないと悟った時には申し訳無い気持ちでいっぱいになる。
あなたの為に飛びたかった…。
゙ ねぇ、蝶さん…。私の為に蠱毒になって欲しい ゙
゙ それが、ママの…目的なら…なるよ ゙
私はママになるんだよ。
そう言ってた人間はママと呼んでいた。
あのツボの中へ入れられた私は、
沢山の虫が悶え苦しむ光景を見て、笑ってしまった。
゙ 生き残れば、ママの役に立つ ゙
喰うか、喰われるかの世界で、
蝶だといって可愛がってくれたママには申し訳ないけど、私は綺麗な羽を持つ蝶ではなく…。
オオミズアオと言う翡翠色の゙ 蛾 ゙なんだよ
゙ アナタ…生きてたのね… ゙
蛾である私を、ママは泣いて喜んでくれた
