第1章 孤独な蠱毒
〜 五条 視点 〜
約1300年迄の奈良時代。
とある年端もいかない貴族の娘が、
誰の子かも分からない赤子を腹へと宿した。
相手は恐らくお忍びで来た際に、
娘と一夜を交して遊んだ帝と思われていたが、
帝はそれを全面的に否定し、娘を光の当たる外へと出させる事を禁じた。
永久牢獄。その言葉が合う程に、娘は暗い中で暮らし、腹に宿る子は母の気持ちを知らず
徐々に大きくなっていった。
娘は、腹の子を恨み…腹の子さえ居なければ…
そう思い、部屋の隙間から入って来た蝶の幼虫をカゴで飼い、時折与えられる野菜を食わせ育てた。
幼虫は蛹から蝶へと成長したが、
栄養が偏り、動くスペースも狭かった為に、蝶は飛ぶ事も出来ない奇形となり、外の世界も知らない虫して生きていた。
貴族の娘は、腹の子を殺す為、自らの命を絶つ為に、
壺に蜂、蟻、芋虫、蜘蛛、百足、蟷螂、等の様々な毒虫を入れた後、
最後に飼っていた蝶を入れ蓋をした。
それから数ヶ月が経過し、
臨月が近付いた娘は、あの壺の蓋を開けた。
強い蟷螂が生きてるかもしれない、他の虫かもしれない、けれど娘が目にし、手に取ったのは……
あの、飛ぶ事ができない羽が奇形となっている蝶だった。
ボロボロになり、羽すら失った蝶はそれでも生きていた為に娘は涙を流した。
生きたいと強く願う意思、もう一度娘に会いたいと思う蝶、それが自分の腹の中で生きる我が子と重なり、少女は産むことを決意した。
けれど、子を産むと同時に帝から送られてきた刺客によって、娘も子諸とも殺された。
目の前で愛する者が殺された蠱毒となった蝶は、
その刺客を毒(呪い)で殺した。
それを知った当時の呪術師達は、蝶を壺に封印し直し、呪物として、娘と子が眠る場所へと埋めた。
「 カゴの中しか知らない蝶が、やっと外に出たんだ。それも、愛しい娘と子は殺されいない世界に…。
七海、君ならその呪物……。
いや、特級呪霊…どうするだろうか? 」
娘がいるから、蠱毒は他の呪いを喰らい守ってきた。
けれど、居ないと知るなら…どうするだろか。
そして、その特級呪霊を七海がどんな風に対応するのか楽しみで仕方ない。
上の連中は、除霊しろとばかり言ってたけど、
果たして、その必要があるのかは、七海の判断に任せよう。
俺が知ってるのは、蠱毒の成り立ちだけ。
