第3章 金髪はママ説
五条さんに向けて放たれたと思われた蜘蛛の糸は、何故か私の身体へと巻き付けば、そのまま引っ張られた。
思いっきり浮遊した事に驚くも、転けることなく少女の近くで降ろされれば糸は外れ、少女は私の前へと立つ。
擦り傷は反転術式によって癒え、少女は左右の手を振り、片手を動かす。
「 やっぱり、七海を攻撃しないと動かないのか 」
地面は大きく鋭利なもので切ったような痕が幾つも残るが、無限で体を覆っている五條さんにはその攻撃は届かない。
「 ほら、本気を出さないと…七海。俺が殺しちゃうよ? 」
「 っ…ママァ、イヤァァァア!! 」
大きな声を放った事に耳がかち割れそうな程に痛む。
その場にいた全員が耳を塞げば、事前に脳を呪力で覆っていた五条さんだけが平然としていた。
「 超音波…なんの蟲だろ?まぁいいか。ほら、行くよ!! 」
呪言師に似た能力の為に、狗巻くんと会話が成立してたんじゃないかと思った。
敵対した人を否定したことで、地面は抉れ壁のように成形するも、五条さんはそれを蹴りで壊せば、少女へと敢えて正面から向かって行く。
彼女は身体を下げ、脚を地面に擦り付け回転すれば、その砂の破片は針へと変わる。
「 スズメバチの針かな、猛毒だろうね 」
当たることはないが、動きを一瞬止める事が出来た為に、少女はワンピースの中からムカデのような尾を出し、先端の方を向けた。
「 ムカデの尾…。だから、俺に攻撃は当たらないよ 」
「 っ…… 」
弾いた尾は、地面へと落ち先端が土に当たればその場は強い酸性によって溶け出した。
あの尻尾の攻撃すら、3級、4級程度の呪術師なら大きなダメージだろう。
けれど相手が悪い…特級呪霊など相手にならない五条悟だ。
勝ち目はない。
「 七海!! 」
「 貴方の捻くれた性格には、反吐が出ますよ 」
少女が怯んだ隙に、私の方へと拳を向けて来れば受け取る為に腕で防ごうとすれば、目の前に翡翠色の翅が揺れた。
「 へぇ、初めて受け止めたね 」
彼の拳を、四枚の翅を盾にし受け止めた少女の姿は、今はもう人間では無くなっていた。
少し離れて立った五条さんは、呪霊の姿に軽く嘲笑う。
翡翠色の綺麗な透き通った翅を持つ、大きな蛾は、私の前に降り立ち、蛾らしい頭を向け此方を見上げて来る。
その顔は、酷く悲しそうだった。
