第3章 星はひかれど燎火をもとめる原いん
私が後から付いてくるのを確認したっきり彼女はこちらを振り返ることはなかった。私も最初は警戒して距離を取っていたのだが、あまりにも淡々と進んでいく彼女を見て敵意はないと判断し少しだけ近づいて彼女を見失わないように歩いた。
長い廊下を進み左に。そしてまたしばらく歩いて右へ。すると彼女がいるであろう前方からガチャリと音が聞こえた。そちらまで進むと突当たりには他の部屋と比べて綺麗に保たれている扉があった。
ここに入ればいいのかしら。ドアノブの誇りを払ってから手にかける。少し錆びているのか、回りにくいドアノブをゆっくりと捻り扉を押す。
扉を開けると、彼女がこちらに背を向けて何かを眺めていた。
「…………ここハ…わタしノ…、わたしノ………私の、部屋。」
最初に話した時はカタコト…というよりも上手く話せない様子だった彼女は私が部屋に入ってきたのを確認すると少しずつ人間のときにそうであっただろう話し方に戻っていった。
纏っていた不穏な呪力も柔らかいものとなり完全に敵意はなくなったと言えるだろう。
私は彼女に近づき、彼女が何を覗いているのか確認した。
「……ストール?」
彼女の前には埃で色が煤けた白かったであろうチェストが置いてあった。そしてそこには古びたチェストの上に置いてあるには不自然なほど綺麗なストールが置いてあった。
ストールは細かなラメが入っていて、まるで透き通った夜空のような紺青色をしていた。
「…とっても綺麗ね、これはあなたの物?」
「………えぇ、そう。彼がくれたのよ。お金がないのに、一目で私のことを見つけられるようにって。」
私の問いに彼女は静かに頷いた。ストールを手に取り愛しそうに見つめる。彼というのは彼女の恋人なのだろうか。