第21章 山のうえには常に蛇がひそみ勢いづいている
「…な、ほんとに……?」
「何度も言っているけど、呼び出したのは君の方だろ。困るね、死人に口を与えるなんて。」
ちょこんと佇む黒毛のキツネ。小動物ながら飄々とした態度のせいか、夏油傑そのものに見えてきた。というか元々顔似てるし…。
いや、そんなことはどうでもよくて。
体内の呪力が少しずつ減っている感覚がする。私の呪力が尽きるまで彼が顕現する形なんだろうな。あまりにも減る呪力量が多すぎて長時間は無理そう。
4本足を小さく畳んで、芝生に伏せて丸まるキツネ…いや、夏油傑。
空は嫌なくらい晴れていて11月初旬の涼しげで心地よい風が、綺麗に整った彼の毛並みを揺らした。
今、私の目の前に夏油傑がいる…。
あの五条悟とかつて肩を並べていた…最悪の呪詛師。
手に汗を握り、緊張する私とは対極に心地よい天気にふわぁぁと欠伸をする夏油傑。彼に近づいた私もまた、彼と目線を合わせるように芝生に腰を下ろして貫禄溢れるキツネに話しかけた。
「………今の状況がわかりますか?」
「私がなにかしらの小動物になっているね。」
彼は、尻尾をペシペシと上下させながらそう答えた。なんならもう自分が何の動物かすらわかっていそうだけど…。
悟の封印と死滅回遊が行われていること自体はわかっていないのね。
「…天国から見守ってました〜っていうのは……。」
「面白いこと言うね、私が天国に行けるとでも?」
「そうですね、失礼しました。」
彼はあはは、と笑った。これはどういう意味で笑っているんだろう…。死後の世界を知っている彼だからこそ溢れた笑みなんだろうか。
聞きたいことは山ほどあるけれど、私の呪力が減っている以上時間もないため、呪骸に入り込んだ夏油傑に現状を説明することにした。
羂索が夏油傑の亡骸に入り込み、10月31日に渋谷で五条悟を封印したこと。
死滅回遊というものが行われている真っ只中であること。
それの目的が天元とその他人類の融合であること。
「…ふむ、まるで人類補完計画みたいだね。」
「人類補完……?」
「ああ、ごめんね。こっちの話だよ。」