第21章 山のうえには常に蛇がひそみ勢いづいている
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なにも起きない。
そりゃそうか。まぁ、たった1日そこらでできたら祖先も苦労しないよね。
「残念。」
私は領域を解いて、肩をすくめた。
さて、悠二くんを探しに行きましょうかと足を一歩前に踏み出した、そのときだった。背後から声が聞こえたのは。
「どうも。」
「!!!」
その声は、少しだけ聞き覚えのある声だった。それでも高専関係者であれば決して忘れることのできない存在。
自分でやっておきながら、まだ現実を帯びないその出来事に冷や汗が滲み出る。ゆっくりと後ろを振り返ると、さっきまで重力に負けてコロンと倒れていたキツネが四足歩行で立ち上がっていた。
「呼び出しておいて、置いていくなんてあんまりじゃないか。」
「え、あ、うそ…。」
目の前の信じられない光景に愕然とし、もはやキツネが人の言葉を話すことなんてどうでもよかった。
トコトコと短い足を動かして、芝生を踏みしめながらこちらに近づくキツネはどこか飄々としていた。
私の予想が正しければ、このキツネの中身は…。
「"また"会えたね。狗巻針。
______悟の相棒。」