第20章 言葉はただそこに坐り臥すと少女は言う
私が鹿紫雲と戦ったときに術式反転をした回数は少なくとも10は超えている。…つまり私は戦闘中に黒閃を何度も出していたことになるけれど、そんなことはあり得ない。
五条悟ですら狙って出せない代物を呪術師として凡才な私ができるわけもない。
……これが起きた原因を調べないといけないけど…呪力の瞬間移動。空間的なものが関わってくる以上、原因は一つしか思い浮かばない。
「………ふぅ。」
私は少し痛むお腹を摩る。五条家の血は、伊達じゃないってことね。
鹿紫雲も術式に関わることなのでそれ以上言及することはなく、腰掛けていた椅子の背もたれに寄りかかり俯くと眠りについた。
眠る秤くんと鹿紫雲の邪魔にならないように、私は2人から少し離れたところでコガネを呼ぶ。
「私が死滅回遊に参加した原因ってわかるのかしら。」
「狗巻針が結界内に侵入したからデス。」
「私は一歩も足を踏み入れていないわよ。」
「いいえ、確かにアナタは結界内にいました。」
「……。」
…コガネの言うことが正しいとして。私のもつ"何か"が結界内に入ったことになるわね。
そもそもこの死滅回遊は何を以て泳者を判別しているのか。鹿紫雲は過去の呪術師。現代人の体を器とし受肉している。
悠仁くんが受肉した過去の術師という認識をされているのにも関わらず、宿儺ではなく"虎杖悠仁"として名前が登録されているということは、おそらく過去の術師たちが泳者として登録されている名前は共通して元の体の持ち主の名前でしょうね。
でも、泳者は十九日以内に結界に入り死滅回遊へ参加しなければ術式を剥奪される。それが適応されるにはゲームマスターが過去の術師と判別できる"何か"が必要なはず。
その"何か"がきっと、結界内に侵入した私の"何か"と一緒なんでしょうね。
"何か"っていうか、ここまで来ると一つしかないんだけど。