第2章 紛い物の鬼
脇腹を化け物の刀が掠めていく。
痛みが走るが、代償として化け物の左目には刃の切っ先が食い込む。
「観念したら? 目が見えなければ刀は扱えないでしょう?」
だが、化け物はニタニタと気味の悪い笑みを浮かべている。
(こいつ……痛覚が無いの!?)
と、思わず眉をひそめた。
どんな人間も、目を抉られれば戦意を削がれる筈だ。
少なくとも、今までのの経験ではそうだった。
一旦飛び退いて距離を置こうとした瞬間、背筋を嫌な予感が駆け抜けた。
ぎりぎりの所で体を捻り、右手を振り上げる。
ガキィン、という凄まじい音と共に、再び迫っていた化け物の刀と私の刃が再び噛み合う。
競り合いでは負けると察し、素早く刀を弾いて今度こそ飛び退いた。
懐剣を構え直し、ジリジリと前へ出ながら隙を伺う。
「……、……!」
化け物が、何かを呟いた。
「?」
「血……血を寄越せ……」
その目が、益々狂気を帯びてゆく。
それに連れ、これまでに感じたこともないような嫌な感覚が背筋を這い上ってくる。
じわりじわりと、その感覚に身体が縛られていくような錯覚に陥った。
浅く息を吸い、腹に力をいれて背筋を伸ばす。
そして、大きく一歩踏み出し、
左手の懐剣を投げつけた。