第2章 紛い物の鬼
走っても走っても、奴らは追いかけて来る。
私はまだ走れそうだが、昼間私以上に歩き回った千鶴は目に見えて消耗し始めた。
咄嗟に手を握り、近くの路地へ隠れる。
安心したのか、千鶴がへなへなと座りこんだ。
それでもまだ警戒は解かずに千鶴の肩を抱き寄せ、懐剣に手をかける。
私達を探し回る音が、すぐ側で聞こえた。
「いねぇか」
必死で息を殺し、男が離れるのをじっと待つ。
いざとなれば、私が千鶴の盾となって逃がす覚悟もできている。勿論、男を殺す覚悟も。
声はどんどん近づいて来る。
懐剣を音を立てずに抜き放ち、背後に千鶴を庇って構える。
男の影が私達の隠れる路地にかかったその瞬間。
は
「ぎゃあああああ!!!」
「_____っ!?」
凄まじい悲鳴があがった。次いで、ドサッという音。
近くに居た男も驚いたようで、倒れた別の男の安否を確認しようと振り向く。
そしてその男もまた、断末魔をあげて地面に転がった。
「ひっ!」
千鶴が小さく叫び、後退る。壁に立てかけてあった板が倒れた。
その音で気付かれた。
男を斬った奴が、ゆっくりとこちらに歩みよってくる。
月光が、『それ』を照らし出した。
『それ』は雪のように白い髪と、血のように紅い目をしていた。
口の周りには、その目よりも赫い液体がこびりついている。
そして、その手には血に濡れた刀が握られていた。
「千鶴」
意を決して、後ろの妹に呼びかける。
「お姉、ちゃ、」
「私があいつを何とかするから、逃げて」
「でもっ!」
「私なら大丈夫」
すぐそこまで迫っている『それ』に視線を向けたまま、千鶴の頭を撫で、懐からもう一本の懐剣を抜き左手に構える。
まっすぐに、その化け物へ斬りかかった。
互いの刃が噛み合うと同時に、千鶴に叫ぶ。
「早く行きなさい千鶴!!」
弾かれたように千鶴が駆け出し、脇をすりぬけて行く。
それを追おうとした化け物の刀を、左手の剣で封じた。
「行かせないわよ、この化け物……!」
千鶴のことだけは絶対護る。
例え、こんな化け物が相手でも。
そう思い、私は下から右手を突き上げた。
血飛沫が、舞い踊る。