第1章 Sign a contract
そういえば渋谷のセントラル街に手頃なファミレスがあったし、そこに行こうと電車に揺られる事数分。やはり考える事は皆同じなのか、ファミレスも混んでいた。丁度席が空いた所に通され、相席もあるようだった。
「すみません、相席良いかな」
『ええ。構いませんよ』
目の前に座ってきたのは、茶髪に綺麗な宝石サンゴの瞳。どこかで見た事があるような気もしていたが、気にせずメニューと睨めっこした。
「君は恍星高校の生徒かな」
『はい。そうです』
「じゃあ今日は入学式かな」
『ええ。よくご存知でしたね』
「知り合いがそこに通っているものだから」
お互いにメニューを睨めっこしながら視線も合わせずに会話する。しかし高校生で此処まで社交的なのも珍しい。相手の事も若干考えながら、自分が食べたい物も決まったので、ボタンを押して店員を呼ぶ。
「お待たせいたしました」
『チーズハンバーグステーキ250gと、いちごミルク、それからチョコブラウニーサンデーをお願いします』
「かしこまりました。そちらのお客様は…」
「僕は和風ハンバーグとコーヒーを」
「かしこまりました」
この年でコーヒーも嗜むことができるなんて凄いな、と思いながらスマホを取り出した。
「随分沢山頼むんだね」
『入学祝いで、今日だけは自分にご褒美しようかなと思いまして』
そういえば、相席だったのに何も考えずに頼んでしまった。
「そうだったね」
『貴方は?』
「僕は仕事の合間に寄っただけなんだ」
『社会人の方だったのですね』
「あぁ、違うよ。今日はテレビに出る予定があって」
そうか、どこかで見た事があると思ったら探偵王子だ。道理で既視感があった訳だと納得する。
『道理で見覚えがあると思いました。お仕事お疲れ様です』
「ありがとう。でも君、驚かないんだね」
『大声を出してしまったら困ると思いましたから』
「配慮してくれたんだ。助かるよ」
『いえ、お気になさらず』
会話を止めたところでスマホを確認する。昨日までは無かったはずの不気味なアプリがインストールされていた。マスターイゴールはつまりこれを使えと言いたいのだろう。
「なんだか、君は他の高校生とは雰囲気が違うね」
『そうでしょうか?あまり変わらないと思いますが…』
「大人びていて、所作もとても綺麗だから気になって」
『お褒め頂き光栄です。ですが本当に普通の新入生ですよ』