第2章 Destroy the castle of lust
『いえ、今行きます』
後ろから駆け足で明智さんを追いかけ、何でもないように笑顔を作って見せた。
「そういえば、天音ちゃんの友達はどんな人なの?」
『えっ、そ、そうですね…』
そういえば架空の友達の人物像を設定していなかった。けど、架空である必要はない。私が知る未来から覚えている人を辿ればいい。
『とても元気で、偶に天然ですけど、優しい人なんです』
「その子のこと、大好きなんだ」
『ええ。とても』
あれ、私、どうして未来を知っているんだろう。何も、知らない、知らないはずなのに。
「大丈夫…」
『え…あ、はい。ご迷惑をおかけしました』
そういえば前から違和感がった。自分には過去の記憶がある筈なのに、どこか空虚で。未来なんて知るはずないのに、なぜか明智さんの事を前から知っている気がする。それにこれから出会う人のことも。このことは後で主に尋ねなくては。
「本当に大丈夫?」
『だ、大丈夫です。お気になさらず』
少しよろけていた体を起こして、なんとか立て直した。
『駅、着きましたね。一緒に来ていただいてありがとうございました』
「何かあったら言って。迎えに行くから」
『だ、大丈夫ですよ。ちょっとご飯の後で眠くなっちゃっただけです。それではここで…』
明智さんが必要以上に干渉してくることが若干怖い。なにか悪い意味で本当に目を付けられてしまっている気がする。
「間もなく、〇番線に電車がまいります…」
タイミングよく来た電車に飛び乗って先程のことを忘れようと努力した。忘れた方が良いような気がして。
本当は思い出さなきゃいけないことが沢山あるような気がするけど、思い出したくないっていう気持ちがせき止めている。
九段下から蒼山一丁目まではすぐなので、深く考えすぎる前に下車できた。学校帰りの学生が沢山見える。間違いなくここが秀尽学園の最寄り駅だ。
『やっとここまで来れた…』
学校の生徒が来る方に向かって歩いていく。一人だけ制服の違う生徒が別の学校に向かって歩いていく様は異様だった。
ここまで来れば恐らくイセカイナビが発動するはずだと信じて禍々しいアプリを起動した。お気に入りに登録されている通りに発音する。
『鴨志田卓は学校を城だと思っている』
言い終わったと同時に景色が歪み、気が付いた時には禍々しい城になっていた。そしてその入り口前には、猫がいたのだ。