第11章 4月26日 社外
そしてその日も以前の様に、怜治は小夜子の近所まで彼女を送るまでに留めようとした。
「ストーカーになる心配でもしてんの? またこの上着持ってくの、面倒臭い」
そんな彼女の歯に絹を着せぬ物言いも、普段のやり取りでいつの間に怜治は慣れていた。
小夜子のあとについて行き、到着したレンガ張りの彼女のマンションは新しくは無さそうだが、清潔でセキュリティもしっかりしていそうだった。
「やっぱいいな、一人暮らし。 長いの?」
「ん。 大学の時から。 実家から通えない事もないけど、一度家出ちゃうと親がうるさくて、ね」
「なるほど。 飯とかは?」
「お惣菜とか週末の作り置きで適当に。 高階くんとこはお母さん働いてないの?」
「……だね。 親父は稼ぎだけはいいし」
「いいね。 そこでちょっと待ってて」
「? 分かった」
しばらくマンションの前で立ち話をしていたが、何かを思い付いた様に小夜子が中に入って行った。
まだ寒そうに彼の上着を抱き締めて、エレベーターに乗るまでに二度ほどこちらを振り向いては笑う。
可愛い、怜治の頭にそんな言葉が浮かんだ。
「……何だ。 それ」