第11章 4月26日 社外
にしても、カーキというかモカグリーンの男物のニットにペールパープルのパンツとヒールって、どうなの?
「………これ、見た目凄く変だと思うよ」
「見ないから大丈夫。 早く帰ろ、送る」
そして先を歩いて本当にこちらを見ない。
「そうじゃなくて」
言いかけて、そんな怜治が何だか可笑しくなった。
仕舞いに小夜子がくすくすと声を立てながら彼のあとをついて行く。
その内仏頂面だった怜治の口元も一緒に緩み、声を出さずに彼女に合わせて微笑った。
帰り道は金子の悪口で盛り上がり、それからよくよく聞けば怜治の家がここからは反対方向なのに小夜子が恐縮した。
「高級住宅街じゃないの」
「元は祖母の古い家だよ」
まだ冷える春先の夜だったが、花を失った桜の枝先からは新緑が芽吹いていた。
途中道にあった家の、壁いっぱいにツタの様に張った植物に小夜子が足を止めた。
「新緑、それからじきにバラの季節だね」
「これ?」
「そう」
先の窄まった花のまだ緑の蕾を、小夜子がしげしげと眺めていた。
「好きなの?」
「うん。 本場のモロッコなんかでは朝に手で摘んで、香りが強い香水を作るんだって」
「ふうん……」