第11章 4月26日 社外
小夜子がオフィスビルの自動ドアを抜けると、丁度出入口からぎりぎり見える位置に、怜治が立っていたのに気付いた。
「お疲れ様」
「お疲れ」
そしてどこか、不機嫌そうな。
人を呼び付けておいて。
まさか最近無視してた事を、怒ってるとか?
「鞄」
「ん?」
「荷物持つ」
ひったくる様に小夜子のバッグを取り上げ、手に持っていた春物のニットの上着を彼女の両肩に羽織らせた。
有無を言わせず、という素早い動作だった。
「な……何」
「そんな薄着じゃ風邪ひく」
「それ言うなら、自分だって」
ジャケットを着ていなかった怜治は手持ちのニットが無いとビジネスシャツ一枚だ。
さすがにそれでは寒々し過ぎる。
しかもそれだけでは足らず、怜治が小夜子の前に回り、男物でぶかぶかのニットの前ボタンを締めにかかった。
辺りはもう暗くなりかけていたが、まだ会社の近くで人目があり、二人の距離が近い。
「ちょ……」
「あんた胸ないんだな。 つうか、体が薄いのか」
「……………」
何か言いかけるも小夜子は言葉が出て来ない。
怜治の言動がちぐはぐだ。
それでも作業に注力している様子の怜治から、何となく彼女が察した。
どうやら彼は自分の不調に気付いていたっぽい。