第9章 4月24日 高階家
今すぐにでも覆い被さって責めたかった。
いつかのあの夜の、辛そうだった小夜子の顔が一瞬頭に浮かび、躊躇する。
一方、紀佳のそんな様子を想像すると、不思議にひどく掻き立てられる自分もいる。
それも怜治にはよく分からなかった。
「……駄目なら仕方ない」
すい、と手を引っ込めた怜治が同時に立ち上がり、またデスクへと向かう。
紀佳からのいくらかの視線を感じ、しばらくののち食器を片付ける音がして静かに部屋を出て行った様だった。
それを背後で確認してから、怜治が振り返って再びテーブルの上のスマホに目をやる。
今週半ばから、小夜子からの連絡が途絶えていた。
『湊さんの事も、あれからよく耳にした』
それは彼女の見た目だけじゃない。