第6章 4月12日 達郎の店
怜治が両側のポケットに手を入れて歩幅を緩めた。
少し早足になっているとでも思ったらしい。
「態度が会社と大違い。 高階くんって随分と器用だよね」
嫌味のつもりでそう言うと、怜治の口元が幾分綻んだ。
「……ふん」
「何」
「そっちこそ。 他人の事言えねー」
「何が」
「会社じゃ随分澄ましてるし、外に出たらえらい強気だし、寝たら寝たで……まあ、今は何か、しおれて泣きそうだし」
「別に……」
「ホントに具合悪い? 飲み物とか……タクシーの方がいいか」
「大丈夫」
そもそも誰のせいで、なんて責任転嫁もいいとこだ。
夜遅くにわざわざ来てくれた怜治は普通に心配している様子だ。
あの日だって、大人気なく煽ったのはこっち。
小夜子はしばらく何も言えず、怜治の半歩程後を歩いていた。