第6章 4月12日 達郎の店
「……ごめんね」
「ホントに大丈夫か?」
「どういう意味よ」
声を荒らげかける小夜子に怜治がくっと笑い声を洩らす。
そんな彼の外見を改めて見ると、やはり若いと小夜子は思う。
なのに妙に女慣れして人を食った所もある。
たまに乗せられる自分も自分だけど、彼にはそうさせられる何かがある。
悪い子では、無さそうなんだけど。
「あとどれ位? 家まで」
「え? もうすぐ。 数分程」
「じゃもう一人で帰れるよな。 ここそんな暗くないし」
「……ん? うん、ありがと」
拍子抜けした様な表情の小夜子に怜治が神妙な様子で向き合う。
「良かった。 いや良くはないけど、謝りたかったから。 先輩にあんなことしたの」
小夜子の顔が赤くなった。
それに気付いたのか気付いていないのか、怜治がふいと目を逸らし彼女に背を向ける。
「おやすみ」
そう言う小夜子に軽く手だけを上げ、彼はまた街の方へと戻って行った。
不思議な子だとも小夜子は思った。
体の関係を持つと、男は決まって一種の馴れ馴れしさを持って接したがる。
だけどそうじゃないのなら願ったりじゃない。
面倒事なんて沢山だ。
そう思い直し一つだけ、胸のつっかえが取れた気分だった。
しばらく彼の後ろ姿を見送り、程なくして小夜子も帰路へと向かう。